小倉織について

小倉織は、江戸時代初めから大正時代にかけて現在の北九州市周辺で盛んに織られていた木綿の織物です。古くは徳川家康が鷹狩の折りに小倉織の羽織を着ていたとか、細川忠興が他の大名への贈り物にしたなどと言われています。小倉織は、たての糸の密度が高く丈夫な布なので袴や帯、羽織などとして使われました。その丈夫さから「武士の袴は小倉に限る」と言われ、日本全国で広く愛用されていました。小倉織は小倉ばかりでなく、他の地域でも盛んに作られ、かなり普及していたことは明治時代の文豪の小説の中に小倉袴をはいた書生や若者がたくさん登場することからも分かります。このように盛んに生産されていた小倉織でしたが、時代の変化に伴って昭和の初めごろにはほとんど姿を消し、忘れ去られてしまっていました。しかし近年、小倉織の美しさに気が付いた人々の手によって小倉織はよみがえり、多くの人々によって織られるようになり、地元の文化としての新しい歩みを始めています。

小倉織の特徴

産業革命によって機械化される以前は、糸はすべて紡錘(つむ)あるいは紡ぎ車を使って人の手で紡がれ、手織り機で織られていました。北九州周辺の地域では明治10年から30年くらいの間に次第に手紡ぎの糸が機械紡積糸に替わっていった様子が、地元の旧家にある縞帳(織った布を貼付けた帳面)を調査したことでわかりました。小倉織の糸と布の特徴を手紡ぎ糸が使われていた時代(おもに江戸時代)と、機械紡績糸に替わってからの時代(明治以降)に分けてお話しましょう。

■江戸時代の小倉織

江戸期の小倉織は残っている現物史料が少ないのですが、近年調査によって、3つの小倉織が見つかりました。
①「利休尻ふくら」と呼ばれる茶入を納めた箱を結んだ真田紐(永青文庫所蔵)
②「縞小倉羽織狂言用」(徳川ミュージアム所蔵)
③幕末に小倉藩士が着用した袴(北九州市立自然史・歴史博物館寄託)
の3点です。

1 糸:2本から4本を撚り合せて糸に

「糸車で紡いだ細い糸を2本~4本撚り合わせて袴を織っていた」と資料に書かれています。しかし現物で残っているのは2本の糸を撚り合わせた糸(双糸)で織られたもののみでそれ以上の本数を合わせて織ったものは残っていません。

2 布:武士の袴は小倉に限る

「武士の袴は小倉に限る」と言われて、小倉織の袴は日本中で愛用されました。
「ササラ(竹を細く割って作ったブラシ)で擦っても破れずに光沢を増した」という言葉が残っていますが、丈夫な布の秘密は2本撚りの糸で密度高く織った布だったからです。

3 柄:限られた色の縞

無地のものと縞柄のものがありました。使われている色は藍色が最も多く、他には茶色、灰色、白などが使われていました。
縞柄を図で表わしてみましょう

「尻ふくらの箱の紐」の縞

徳川ミュージアムの「縞小倉羽織」の縞

「備前小倉織」の縞(岡山県)

■明治以降の小倉織

明治29年に小倉織物会社が創立されて、機械紡績糸、化学染料を使った小倉織が生産されるようになりました。

1 糸:細い紡績糸

明治10年から明治30年くらいの間に使われる糸は手紡ぎ糸から機械紡績糸へと切り替わって行きました。縞帳の中には両方を同時に使って織った布もありました。糸が大事だった時代、手元にあるものは最後まで使ったのだと思われます。たて糸には双糸(30/2、40/2、、60/2綿番手)が多く使われています。

2 布:緯糸が見えない

北九州市立自然史・歴史博物館に残っている袴のたて糸の密度の平均は、1㎝当たり約31本ですが、最も密度が高いものは1㎝当たり40本です。よこ糸の1㎝当たりの打ち込み数に比べて、たて糸は1.4倍くらいの密度です。ルーペで覗いてみるとたて糸の密度が高いことが分かります。たて糸が隙間なく並んでいるのが見えますが、よこ糸はほとんど見えません。たて、よこ同じくらいの密度で糸が並んでいる日本手ぬぐいと比べてみてください。たて糸の密度が高い布は丈夫です。

小倉織袴地

たて糸が隙間なく詰まっていてよこ糸はほとんど見えません。たて糸の密度は1mmに4本、1cmに40本です。

日本手ぬぐい

目が粗いので向こうが透けて見えています。たてとよこの糸が同じくらい見えています。

3 柄:グラデーションがくっきり

たて糸の密度が高いことで、柄の特徴も生まれてきます。ほとんどたて糸しか見えないために、よこ糸に使われた色が混ざることなく、たて糸に使われている色がはっきりと見え、縞が鮮明に見えるのです。また化学染料が使われるようになると、たくさんの色の染め分けによって、多段階のグラデーションを使った縞柄が多く作られるようになりました。

豆知識

小説の中の小倉織

道場で剣術の稽古をしている若者や、寺子屋に通う子供たちの多くは小倉織の袴をはいていました。また明治から大正にかけての文豪の小説の中に小倉織の羽織や袴を着た書生さんが度々登場します。